6.活性化における投資可能な規模設定

 前項までに心理的距離を短縮するための対策シナリオや活性化のための活性化に関係する構成員の集団化の水準、あるいはまちの情報化水準の向上策、まちの管理運営システムに対する各措置の効果が、商店街等の吸引可能額に及ぼす影響を具体的な数値によってどの程度のものか、シナリオやその組合せによる効果がどの程度の重みを持っているかを解析してきました。
 ここでは、第6章で算定された吸引可能額の与件の変化や時系列的な変化を修正するわけですが、このとき同時に対策別に活性化エリアの規模や商業施設の各業種、業態の再配置(大型店の中核化+専門店街等)のあり方はどのように変化するかを読みとり、さらに先に述べた(活性化構成員の集団化と情報化水準並びにまちのアドミンストレーション性能等)事項について再評価し、部分修正しつつ計画全般の収斂を図ります。
 ここでまず前項で行った結果つまり、商勢圏内における潜在購買額から吸引することが可能となる額について対策別に効果水準を理解しておきます。その上で次の行程に従って投資上の限界値を読みとって行きます。

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投資限界値に関するエスキースの姿勢
 このシステムは多くの経験と知識に支えられたベテランが、目的やエスキースの意図を明らかにした上で、入力する諸元の意味合いを理解し、諸元の相互関係を総合的に認識していることを前提としています。
 また、ベテランが入力してエスキスを行う場合であっても、このシステムは即時処理ですから直ちに解が得られます。これが必要な即時解の良さであり欠点でもあります。慣れるまでは解が得られる速度に思考が着いていけないときがあります。そこで、エスキス者は、まずシステムの構成、計算式の根拠や相互関係を正しく理解し、計画目標やエスキスの狙いを定めて文書にし、検討デザインというか検討のWBSを明確にした上でエスキスに入る必要があります。このように経験上解っていることを参考に、使い込んで熟練すると大変便利なシステムです。熟練者は検討デザインを行った上で、対策の効果を傾向として把握しますと、対策の限界点や転回点等が理解され、戦略的かつ総合な対策に取りまとめることができます。

売上可能額と投資限界値の検討
 さて売上可能額の検討エスキスを行う先行ファイルから、その解を受けた投資限界値ファイルは、黄色に塗られた入力セルに摘要に記された注意を参照しながら入力を終了すると投資限界値が自動的に得られます。最近の商業機能は殆どの地域において過飽和になっていますから、対策の効果はそれほど大きくはないと思う必要があります。恐らくはリフレッシュ事業、改修やスクラップ&ビルド、業種転換などの対策が必要になります。新設する商業施設はこれを補完したり総合力を発揮したりするための再配置などの工夫が重要になります。これらの視点を頭において、入力セル枠を転用して傾向として近似した解を導き出すことになります。(このモデルによって戦略的方向つけをえた後は、詳細計画の検討により正確な解を得ることになるでしょう)
 色々な対策によって増加した吸引可能額によって投資できる限界値は、最初想定していた対策を実施するには少し小さすぎるときは、活性化構成員の実力を見ながら次の選択をすることになります。

a.当初想定した諸計画を縮小し投資可能額の範囲で効果のある対策を工夫するシナリオへ転換する。
b.活性化構成員の経営状況を見ながら、既存売上額の収益の一部を活性化対策に活用することに同意を求めるシナリオを具体化する。

 これらのシナリオを展開したとき、どの程度の事業エリアについてどのような対策が打てるかを判断するため、両シナリオともに次の行程に入ります。

建設投資額、付帯整備費と執行機関等
 現在までにさまざまな検討をすすめて、この位の規模の地区整備を行う可能性はあるかなといった感じは誰でも持っていると思います。そんな全く感の数字を「必要な商業施設の延べ面積」の入力枠(濃い緑)に仮に入力します。更に黄色のセルはすべて入力枠ですから摘要にある説明や参照事項をよく読んで総て入力します。次に述べる④敷地に関する諸費用の検討も総て入力します。
 その上で【Ctrlキー+a】を同時に入力します。するとExcelのゴールシーク機能等によって、ここに挙げられた総ての計算式や入力を満足する建設規模や敷地規模等が自動算出されます。これをメルク・マークにして後述するさまざまな検討に活かしていきます。
入力にあたっては摘要等を参照するほか、次のことに注意する必要があります。

 a.執行機関
 この事業全体を執行する機関、例えばTMO(タウン・マネージメント機構)或いは活性化整備機構等の活性化の進展のため公的に準備された執行機関等によって、事業の全部又は一部が施行されると、一般企業などの施行とは税法上の取り扱いが異なり、さらに助成の程度が大きく異なってきます。(WEB:第6章参照) そこでこれらの活性化支援のため準備された制度についてはもちろん、これらに重ねて適用されそうなまち並み再生事業(各種の土地区画整理事業、都市再開発事業、その一体施行)などの色々な事業制度を研究することになります。事業目的を明らかにし課題解決に貢献する力のある事業制度(WEB:第6章事業制度)を探したり、執行上の課題などの実態を的確に判断するためには(第8章の記述予定)専門家の協力を必要とするでしょう。
 ここでは事業制度の効果がどの程度あるかをみるため、適用入力セルに1を、軽減率、助成率入力セルに摘要事項を参照して入力し検討し、適用、非適用の両ケースについて効果を読みとっておきます。

 b.駐車場、駐輪場経費
 商業施設の駐車場には色々な立場や経営方針によってさまざまな必要台数が求められています。大規模店舗の法的立場からは必要台数と適正な交通流の制御が行われ、大型店の一般事例からは別の大きな数字が要望されています。地区の立地や主接道の状況によっても変化しますので正確な解析が必要になりますが、この段階では、当たらずと云えども遠からずの数字で検討しておきます。(もちろん、駐車場や駐輪場の設置は経営計画に大きな影響を及ぼしますから、次のフェーズでは詳細に計画を詰めることになります)

 c.商業環境の整備改善費
 商業環境の整備や改善については商業施設の整備に主眼がおかれどうしても後付になりがちですが、消費者市民や来街者にとっては、甲乙つけがたいどちらも大切なことになります。また地域の特徴的な特性によって立地を創る地方自治の時代からいっても、第6章(第4章:まちづくりの主体性、第5章1、第6章3,4)までに何度も記述されていますように、量的な競合に大きな期待がかけられない現状では、歴史文化や景観上の資源、機能を有効に活用して地域商業にも地域の誇りとなり地域自治の中核となる方向の整備が必要になります。
そして、このための費用は単に商店街のためだけではなく、市民全般のための事業になりますから、市民や地域行政との協議を深めて特徴的特性のある景観形成に貢献する中で商店街が果たす役割について部内議論が始められなくてはなりません。その上で自治行政と地域が一体となって方向つけを行い、分担して商業環境の整備に着手することになります。このような意味合いを考えて、商業環境の整備改善率の入力セルに建設費に対する割合を入力します。そして商店街の責務だけではなく市民と一体となって、つまり自治体を挙げてまちづくりを進めることが大切であることを理解します。

 d.内装費の取り扱い
 最近の消費性向には、かってあった強いレジャー性期待は薄れつつあります。しかも個性化が進み、必ずしもゴージャスな装いばかりが期待されているわけではありません。むしろ消費は個性化を望む商品群に対しては遠距離をいとわぬ消費行動も目立ちます。このような性向もあって最近では、建築躯体や意匠工事の中に内装を組み込むことによって建設投資を抑え経営の効率化を図るという傾向を持っています。
 ここではこのような背景を考え商業施設の工事費と内装費のバランスある入力が必要になります。一定以上の工事費であれば内装費の計上が必要でない場合もあれば、建設される施設の目的例えば専門店集団ビルの建設の場合は内装する面積は小さくなりますが、一定以上の内装費が必要になります。詳細な検討には全貌を把握できる専門家の参加が必要になります。

敷地に関する諸費用の検討

 a.適正な建坪率
 活性化事業の投資可能額概算モデルでは、商業施設の建設に関して建築延べ面積や建築工事単価を入力していますが、入力項目の中に「望ましい使用階数」があります。百貨店であれば7階とか9階とか、GMSであれば2~3階、場合によっては4階等になるでしょうが、連軒式の専門店街を建設しようとすると1~2階とか一部2階とかになるでしょう。このように望ましい使用階数を指定したあとに適正な建坪率を指定するには、平面駐車場等の配置、敷地内の環境整備が必要になる場合もあるでしょう。これらの相互関係を考えて「適正な建坪率」を入力します。
 これらの入力をしながら、仮においた施設面積の動きや他の出力項目の動きを観察しつつこれを整理すると、頭の中には商店街の再生の方向が少しづつ見えてきます。

 b.敷地購入費等
 このモデルでは、敷地を購入するケース、それも必要最低限の購入に留めるケース、借地権で敷地を確保するケース、スクラップ&ビルドのように新たな敷地を準備することなく土地投資をなるべく少なくすることを考えたモデルです。従って、必要ならば敷地の準備方法はこのモデルと同じような形式で別に検討モデルを作って頂くとよいと思います。
 しかし、全く商店街が自力で活性化を進展するには、客観情勢は決して許容的ではありません。多分、敷地を自力で購入することは経営上の困難が伴うでしょう。むしろ自治体や公的な機関による支援が必要になります。しかし、この支援は公民の支援機関にとっても地元の活性化構成員の団結と決意が表明されて始めて確固としたものとして具体化するでしょう。先ずは活性化の当事者が協力を引き出す、身を切る姿勢が先行しなければなりません。
 このような立場からここでは、敷地の購入費や借地権取得の費用或いはそれらの平均値としての単価を入力することとしています。つまり、スクラップ&ビルド方式であれば敷地は自己敷地で調整用の費用が必要になりますし、一部は借地で一部は購入する等の組み合わせになるでしょうが、それらの費用を概算して平均値として「敷地の購入等に必要な平均単価」セルに入力することになります。

 c.敷地整備にかかる経費率
 敷地整備費は確保した敷地にかかる諸経費ですが、敷地整備費、支払うべき公租公課、権利調整費、交換分合等の費用です。ここでは概算して確保した費用に対する経費の比率として入力します。

投資限界に関わる判断の態度

 先に述べたように、全入力を終了したら【Ctrl+a】キイを同時に入力しますと、入力条件や計算式を満足させる建設面積や敷地面積等が即時に算出されます。
 つまり先にさまざまな対策を打った結果、得られた消費の吸引可能額によって投資可能な額が算定されていますが、この投資可能額を地域のこの周辺部分に配置するとすればどの区画の範囲になるのか、業種業態を変えればどうなるかなどを、黄色のセルの入力をさまざまに変更して比較検討することになります。
 例えば、投資可能額の主力を中型店(SM)用に振り向けて、これによって専門店街の補完をする方式でMDを構成するとすれば、「望ましい使用階数」を1.5と入力しSMの規模を1000m2としますと、あと専門店街はどの程度の規模になるかを検討します。この時「商施設の延べ建築単価」に入力する単価は今のままでよいか、下記する投資限界概算用の入力事項について別に各項毎に整理して再検討します。その結果、専門店街の追加事業は○○m2となり○店程度が建設できる可能性があることが判明します。この面積によってある商品群の販売額シェアを求め最初に策定されたMDが達成可能かどうか判断するという繰り返し作業を継続します。
 この時、専門店を補完すべき業種に課題がなければ、先に実施することにした対策シナリオや、在来売上額から振り向けた投資率を軽減し、新しく開拓した吸引可能額だけによって活性化が図れるか詳細な対策を検討することにするなど意味を持たせた新しい入力によってさまざまな検討をして活性化戦略を構築していきます。
 下記する入力事項のうち、下線があるものは特に相互関係が重要です。また、この段階では④⑤の助成策はないものとして検討し、集団化目標に活用するなど余裕ある条件を保持した方がよいかも知れません。

投資限界の概算用入力事項
1.商業施設の延べ建築単価
2.望ましい使用階数
3.建築の付帯経費率
4.活性化機構等の事業施行
5.国・地方公共団体等の助成
6.商業環境の整備改善費率
7.内装面積率
8.内装費単価
9.適正な建坪率
10.敷地購入等に必要な平均単価
11.敷地整備に係る経費率

吸引可能額の概算用入力事項
1.対策シナリオ
2.売上額からの振替え投資率

 このような検討を戦略的に進めるには、先述したように検討のための順序、つまりWBSを作成しておき、これに従って検討を進めます。部分部分を抑えてこれを繰り返して全体像を検討することも興味の持てる進め方ですが、戦略的に事業を組み立てるか否かは事後の展開を大きく変化させます。そこで得られた知見が一定の傾向を持っているか、その傾向はどの要件がやってくるまでは継続しているかなど、戦略要件の働く戦略的機会を相互関係として理解することが重要です。

 このような戦略的シミュレーションによって判断する訓練を重ねると、これに重なって発生するその他の要件が気になってきます。それらをその都度対策にしつつ更なる推理と予測を累積して、計画は隅々まで行き届いたものになっていきます。人の推理力はこのような経験によって知識を増やし推理力は累乗的に増加して行きます。

 こうしてこの活性化事業における投資限界値の概算システムを使って、第6章の時系列変化を再検討しながら、活性化構成員の果たす役割の重要性を認識することになります。そして目的達成のために結束すべき具体的な目標を成文化し討議し、集団化目標として構成員の共有のものとする行程に入って行きます。そして同時にここで確認した時系列補正を完了した諸計画の詳細を詰める行程(第7-1章)に進んでいきます。

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